JVCジャズ祭ニューヨークで聴衆を圧倒した宮間利之&ニューハード
JVC Jazz Festival(June 2000) 評/アイラ・ギトラー(米ジャズ評論家)
今年でバンド結成50周年を迎えたオーケストラ・リーダーの宮間利之と彼が率いるニューハードが25年ぶりにニューヨークにやってきた。前回は、夏のフェスティバルがまだニューポート・ジャズフェスティバルと呼ばれていたときで、ニューハードは屋内の”ローズランド・ポールルーム”で演奏した。あのときはエリントンやベイシーも出演して、ビッグバンド界の両巨頭を前にしてさすがのニューハードもいささか緊張気味だったが、あれから25年を経て、今回は真夏の青空の下、野外のブライアント・パークでの演奏だけにバンドはリラックスして日頃の成果を十二分に発揮した。
リーダーの宮間利之は78歳だというのに、その情熱的な指揮ぶりや貫禄からは年齢がまったく感じられなかった。バンドのメンバーはギタリストで作・編曲家の山木幸三郎とトロンボーンの片岡輝彦を除くとすべて初参加組で、その顔ぶれは若々しく、リーダーのエネルギッシュな指揮ぶりに一丸となって応じていた。
バンドがオープニング・ナンバーの「ドナ・リー」をプレイしはじめた瞬間から、ニューハードがジャズのなんたるかをよくわきまえていることが誰の耳にも明らかになる。演奏にはスイングとファイアーが備わっており、セクション・ワークも見事にまとまっていた。
ハービー・ハンコックが作曲したパステル・カラーの「処女航海」、続けてディジー・ガレスビーに捧げて演奏された「マンテカ」にもニューハードのジャズに対する理解の深さが示されていた。なかでも山木幸三郎の「マンテカ」のアレンジ(特にブリッジ部の編曲)は秀逸だった。この曲でソロを競い合った奥村晶をはじめとするトランペッターにも拍手を贈りたい。もう1人この曲でローランド・カーク風にソプラノ・サックスとテナー・サックスを同時にくわえていた川村祐司には度肝を抜かれた。まさか日本のビッグバンド界にこんなソロイストがいるとは想像もつかなかったからである。
オーケストラのソロイストの多彩さに加えて筆者はバンドのレパートリーの多彩さに驚かされた。ニューハードにはこの日ソニー・ロリンズの「ドキシー」やチャールス・ミンガスの「直立猿人」といったハード・コアのジャズ曲も演奏したが、筆者に特にフレッシュに聞こえたのは、日本に古くから伝わる伝説や伝統的な楽器の響きをもとにして創りあげたオリジナル曲の演奏だった。フルートとクラリネットが琴の響きを奏でる山木の「振袖は泣く」はジャズと日本独自の響きとの見事なフュージョンになっていたし、佐藤允彦の野心的なオリジナル「邪馬台賦」は彼の作曲家としての偉大さを改めて認識させるに十分だった。
次回は25年も待たせないでくれ。そしてこの次はクラブなどで1週間ぶっ続けで聴いてみたいというのが正直な気持ちだ。